刑法 第444問
教材: 刑法③
司法試験 H30 第20問
論点: 犯罪の成否②
問題
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【事例】
甲は、別居している実弟Aとの間で、自己が所有するX市内の土地(以下「本件土地」という。)を代金3000万円で売却する売買契約を締結し、Aから代金全額の支払を受けたものの、本件土地の所有権移転登記は未了のままであった。
そこで、甲は、自己が経営する会社の資金繰りのため、自ら保管していた本件土地の登記済証を利用し、事情を知らないBに対して、本件土地に抵当権を設定するので、それを担保に1000万円を融資してほしい旨申し入れたところ、Bは、これを了承した。数日後、甲は、Bから1000万円の融資を受けた上、Aに無断で本件土地の抵当権設定登記を完了した。
X市の土木部長である乙は、本件土地を乙個人として購入したいと考え、甲に対して、その旨を申し入れた。甲は、乙に対して、本件土地は既にAに売却済みであるが、登記名義は自分に残っているので、代金2000万円で売却してもよい旨を伝えたところ、乙は、これを了承した。そして、乙は、Y市内に時価700万円の農地(以下「本件農地」という。)を所有していたことから、本件土地の購入資金を調達するため、それまでにX市発注の公共工事の受注に際して、土木部長として便宜を図ってきた建築業者を営むCに対して、本件農地を時価で買い取ってほしい旨を依頼した。Cは、本件農地にはそれまで買手が全く見付からず、乙が苦労していることを知りながら、かねてX市発注の公共工事の受注に際して乙が有利な取り計らいをしてくれたことに対する謝酬の趣旨に加え、時価であれば損をすることもないと考えて、この依頼を了承した。そして、Cは、乙と本件農地の売買契約を締結した上で、乙に現金700万円を手渡した。
その後、甲は、Aに無断で乙と本件土地の売買契約を締結し、乙から代金全額の支払を受けた上、本件土地の所有権が売買により乙に移転した旨の登記を完了した。
公式解答
1 / 1 / 2 / 2 / 2
正誤・解説
ア /
甲がAに無断で本件土地に抵当権を設定し、その旨の登記を完了したことについては、甲に横領罪が成立するが、Aは甲の実弟であるので、告訴がなければ公訴を提起することができない。
判例は、売買で所有権移転前の不動産に抵当権設定をして登記した行為について、権利移転後の処分と同様に不法領得の意思を示すものとして横領罪の成立を認める。相手方が実弟でも、非親族間の罪として親告罪にはならない。
根拠条文:刑法252条第1項・e-Govで法令を開く刑法244条第2項・e-Govで法令を開く刑法255条・e-Govで法令を開く
刑法252条第1項―現行条文本文
自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の拘禁刑に処する。
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刑法244条第2項―現行条文本文
前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
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刑法255条―現行条文本文
第二百五十五条 (準用)
第二百四十四条の規定は、この章の罪について準用する。
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イ /
甲が本件土地をAに無断で乙に売却し、所有権移転登記を完了したことについては、それ以前に甲がAに無断で本件土地に抵当権を設定し、その旨の登記を完了したことによって、犯罪の成立は妨げられないので、甲に横領罪が成立する。
先行する抵当権設定登記があっても、その後の売却・所有権移転登記について横領罪の成立自体は妨げられない、という判例の立場。先行行為で後行行為が正当化されるわけではない。
ウ /
乙は、本件農地を時価でCに売却したのであるから、乙がCから交付を受けた現金700万円は通常の経済取引に基づく不動産の購入代金であり、不正な利益としての賄賂には当たらないので、乙に収賄罪(収受)は成立しない。
判例は、賄賂性は金銭の名目だけでなく職務行為との対価性で判断する。本件では、乙の便宜供与への謝礼の趣旨があり、時価売買でも賄賂性が否定されない。
根拠条文:刑法197条第1項・e-Govで法令を開く
刑法197条第1項―現行条文本文
公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の拘禁刑に処する。
この場合において、請託を受けたときは、七年以下の拘禁刑に処する。
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エ /
仮に、乙が、Cに対して、時価を超える1000万円で本件農地を購入するよう依頼したが、Cはこの依頼を拒否した場合、収賄と贈賄は対向犯として必要的共犯の関係にあるので、乙に収賄(要求)は成立しない。
要求収賄は相手方が応じなくても成立しうる。贈賄側との対向犯・必要的共犯関係を理由に、要求行為自体の処罰が妨げられるものではない。
根拠条文:刑法197条第1項・e-Govで法令を開く
刑法197条第1項―現行条文本文
公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の拘禁刑に処する。
この場合において、請託を受けたときは、七年以下の拘禁刑に処する。
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オ /
乙は、甲がその所有にかかる不動産を第三者に売却し所有権を移転したも未だその旨の登記を了しない場合において、乙がその情を知りながら甲に対する債権の代物弁済として右不動産の所有権を取得しその旨の登記をしたとしても、乙は適法に所有権を取得したものであるから、甲の不動産横領罪の共犯とはならない。
判例は、二重譲渡を知りつつ前主から受ける形で所有権移転登記を得た者について、経済取引上違法性のある行為として共犯を認める立場。適法取得だから共犯でない、とはいえない。
根拠条文:民法177条・e-Govで法令を開く
民法177条―現行条文本文
第百七十七条 (不動産に関する物権の変動の対抗要件)
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
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全体要旨
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