刑法 第439問
教材: 刑法③
司法試験 H27 第20問
論点: 各種犯罪の成否
問題
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【事例】借金の返済に苦しんでいた甲とその内妻の乙は、A市が発行したご被保険者の氏名を乙から実在しない丙に改変し、乙になりすまして消費者金融会社から借入れをして現金を手に入れることを相談した。甲と相談したとおり、乙は、上記国民健康保険被保険者証の被保険者氏名欄にことあるを丙と書き換えた。そして、乙は、消費者金融会社の無人借入手続コーナーにおいて、借入申込書に丙の氏名を記載し、丙と刻した印鑑を押捺するなどして丙名義の借入申込書1通を完成させた上、同申込書及び氏名を丙に改変した上記国民健康保険被保険者証の内容を、同コーナーに設置された機械を使用し、同機械に接続されている同社本店の端末機に送信し、同社の貸付手続担当者に対し、丙であるかのように装って100万円の借入れを申し込んだ。同担当者は、当該申込みをした者が真実丙であり、かつ、貸付金は約定のとおりに返済されるものと誤信し、同社の貸付システムに従って丙名義の借入カードを上記コーナーに設置された機械から発券した。乙は、その場で同カードを入手し、同カードを現金自動入出機に挿入して同機から現金100万円を引き出した。その後、乙は、上記行為に及んだことを後悔し、自宅で、甲に一緒に自首をしようと持ち掛けた。甲は、これを聞いて激高し、乙を窒息死させようと考え、その首を絞めたところ、乙は、首を絞められたことによるショックで心不全になり死亡した。甲は、この死亡から約30分後、死亡して横たわっている乙の指に時価20万円相当の乙の指輪がはめてあることに気付き、同指輪を奪って逃走した。
公式解答
ア2 / イ1 / ウ2 / エ2 / オ2
正誤・解説
ア /
乙が国民健康保険被保険者証の被保険者氏名欄を丙と書き換えた行為については、単に文書の内容を書き換えたにすぎないから、甲と乙には、公文書偽造罪ではなく、公文書変造罪が成立する。
被保険者氏名欄の書換えは、公文書の内容を書き換えるのではなく、文書名義そのものを変える方向の改変として評価される。したがって、公文書変造ではなく公文書偽造が問題となる。
根拠条文:刑法155条第1項・e-Govで法令を開く
刑法155条第1項―現行条文本文
行使の目的で、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者は、一年以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 公務所若しくは公務員の印章若しくは署名(以下この章、第百六十五条及び第百六十七条において「印章等」という。)を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画(以下この章において「文書等」という。)を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章等を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書等を偽造する行為
二 公務所若しくは公務員の電磁的記録印章等(印章等として表示されることとなる電磁的記録をいう。以下この章、第百六十五条及び第百六十七条において同じ。)を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき電磁的記録文書等(文書等として表示されて行使されることとなる電磁的記録をいう。以下この章において同じ。)を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の電磁的記録印章等を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき電磁的記録文書等を偽造する行為
刑法・e-Gov法令APIから取得した現行条文(取得日時: 2026-07-26T23:14:50)
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過去問出題時点の旧条文と異なる場合があります。
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イ /
乙が丙名義の借入申込書を作成した行為については、丙が実在しなくても、一般人をして真正に作成された文書であると誤信させる危険があるから、甲と乙には有印私文書偽造罪が成立する。
実在しない名義人であっても、外形上真正文書と誤信させる危険があれば有印私文書偽造となる。判例は、架空名義でも一般人を誤信させる危険を重視する。
根拠条文:刑法159条第1項・e-Govで法令を開く
刑法159条第1項―現行条文本文
行使の目的で、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。
一 他人の印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造し、又は偽造した他人の印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造する行為
二 他人の電磁的記録印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を偽造し、又は偽造した他人の電磁的記録印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を偽造する行為
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ウ /
甲と乙は、当初から現金100万円を手に入れる目的で丙名義の借入カードを入手し、同カードを利用して現金100万円を引き出したのだから、甲と乙には現金100万円について詐欺罪が成立する。
カード発券・利用の全体をみると、財物は欺いて交付させたとはいえず、判例はこの類型を詐欺ではなく窃盗として処理する。現金引出しも欺罔による交付とはいえない。
根拠条文:刑法246条第1項・e-Govで法令を開く刑法235条・e-Govで法令を開く
刑法246条第1項―現行条文本文
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。
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刑法235条―現行条文本文
第二百三十五条 (窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
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エ /
甲は、乙を窒息死させようとしていたが、乙はそれとは別の原因で死亡するに至ったのであるから、甲には、この首を絞めて死亡させた行為について殺人既遂罪は成立せず、殺人未遂罪と過失致死罪が成立する。
結果発生が別原因でも、実行行為に着手し死の危険が具体化していれば殺人未遂となる。過失致死を重ねるのではなく、故意の殺人行為として未遂を問題にする。
根拠条文:刑法199条・e-Govで法令を開く
刑法199条―現行条文本文
第百九十九条 (殺人)
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処する。
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オ /
甲が乙の指輪を奪った行為については、その時点で乙は既に死亡しているから、甲には、窃盗罪ではなく、占有離脱物横領罪が成立する。
死亡直後でも、被害者の財物に対する事実上の支配がなお保護に値する場合は、占有は直ちに離脱しない。判例はこの種の事案で窃盗罪の成立を認める。
根拠条文:刑法235条・e-Govで法令を開く
刑法235条―現行条文本文
第二百三十五条 (窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法・e-Gov法令APIから取得した現行条文(取得日時: 2026-07-26T23:14:50)
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過去問出題時点の旧条文と異なる場合があります。
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全体要旨
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