刑法 第109問
教材: 刑法①
司法試験 H19 第18問(改)
論点: 責任能力
問題
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【事例】自動車を運転していた際に交通事故を起こした甲について、精神鑑定の結果、事故当時、統合失調症に罹患し、心神耗弱の状態にあったとの鑑定意見が出されたが、裁判所は、「被告人が、統合失調症に罹患し、交通事故当時病的体験の出没があったとしても、その職業、社会生活における通常の適応が維持し得、病勢がいまだ被告人の人格、行動を圧倒し、対社会的適応を逸脱しないだけの統覚能力を保持し得る人格状態にあり、しかも、上記事故が被告人のハンドル操作の不適切を過失内容とし、事故自体がその病的体験と直接あるいは不可避的因果関係があるとは認め難いなどの事情の下においては、被告人は心神喪失ないし心神耗弱の状態にはなく、当該事故における過失運転致死傷罪についての責任能力がある」旨の判断を示した。
公式解答
5
正誤・解説
1 /
この裁判所の判断は、この事例における責任能力の判断に当たり、精神の障害という生物学的要素と、弁識能力・制御能力という心理学的要素の両方をともに基準とする混合的方法によることを前提としている。
裁判所は、統合失調症という精神障害の有無・程度と、通常の適応や統覚能力などからみた弁識・制御能力を総合して責任能力を判断している。したがって混合的方法を前提とする説明は正しい。
2 /
この事例における責任能力の判断方法に対しては、犯行と精神の障害との因果関係が明らかである場合に限って責任能力を否定することになり、心神喪失ないし心神耗弱を認める場合が不当に制限されるおそれがあるとの批判が可能である。
事案では、事故と病的体験の直接的・不可避的因果関係が認め難いことを重視しており、結果として因果関係が明白な場合に責任能力否定が偏るとの批判が成り立つ。
3 /
この裁判所の判断は、同じ精神の障害の状態にありながら、ある行為については完全な責任能力を認め、他の行為については完全な責任能力を認めないという部分的責任能力を肯定する見解を前提とするものとの評価が可能である。
裁判所は、病勢や統覚能力を具体的事情と結びつけて当該事故について責任能力を判断しており、行為ごとに責任能力をみる部分的責任能力の発想と整合しうる。
4 /
甲の精神鑑定を行った鑑定人(精神科医)は、甲は統合失調症に罹患し、本件事故当時心神耗弱の状態にあったとの鑑定意見を述べているが、精神科医の鑑定意見と異なるからといって、この裁判所の判断が誤りであるとはいえない。
責任能力の有無・程度は裁判所が法律判断として行うもので、鑑定意見は重要な資料にとどまる。よって、鑑定意見と異なる裁判所判断でも直ちに誤りとはいえない。
5 /
責任能力については、個々の行為から離れて一般的に判断できる行為者の属性であるとする見解と、個々の行為ごとに個別的に判断できる行為の属性であるとする見解があるが、この裁判所の判断は、前者の見解に基づくものと考えられる。
裁判所は、事故という具体的行為との関係で責任能力を判断しているため、一般的・抽象的な行為者属性として責任能力をみる前者ではなく、行為ごとに判断する後者の発想に近い。
全体要旨
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