刑法 第27問
教材: 刑法①
司法試験 H24 第3問(改)
論点: 早すぎた構成要件の実現
問題
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【事例】
甲は、自動車内でVにクロロホルムを吸引させて失神させた上、約2キロメートル離れた港までVを運び、自動車ごと海中に転落させて溺死させようという計画の下、Vにクロロホルムを吸引させた。甲は、Vが動かなくなったので、計画どおりVが失神したものと考え、港に運んで自動車ごと海中に転落させた。Vの遺体の司法解剖の結果、甲の計画とは異なり、Vは溺死ではなく、海中への転落前にクロロホルムの吸引により死亡していたことが判明した。
【判旨】
甲の殺害計画は、クロロホルムを吸引させてVを失神させた上(以下「第1行為」という。)、その失神状態を利用してVを港まで運で、自動車ごと海中に転落させ(以下「第2行為」という。)、溺死させるというものであって、第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえること、第1行為に成功した場合、それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存在しなかったと認められることや、第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと、第1行為は第2行為に密接な行為であり、甲が第1行為を開始した時点で既に殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。
公式解答
2 / 4
正誤・解説
1 /
ダンプカーに女性を引きずり込んで数キロメートル離れた人気のない場所まで連れて行き性交等をしようという計画の下、抵抗する女性をダンプカーに引きずり込んだ上、計画どおり性交等をしたが、引きずり込もうとした段階で加えた暴行により同女が負傷したという事例において不同意性交等致傷罪の成立を認める見解は、実行の着手時期についてこの判旨の考え方と矛盾する。
判旨は、第一行為が第二行為に密接で、開始時点で実行の着手を認める考え方である。設問の不同意性交等致傷の事例でも、引きずり込み段階の暴行を含めて着手を捉える見解は、この判旨と整合する。
2 /
この判旨は、甲がVにクロロホルムを吸引させた場所と殺害計画を実行しようとしていた港との距離が約2キロメートルの距離にあったということを、実行の着手時期を決める上で考慮している。
判旨は、第1行為と第2行為の時間的場所的近接性を考慮要素としている。設問の約2キロメートルという距離は、場所的近接性の判断に関わる事情として用いられている。
3 /
38条1項本文は、「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」と規定するとこ、判例(最決平16.3.22【百選I64】)は、「実行犯3名は、クロロホルムを吸引させてVを失神させた上自動車ごと海中に転落させるという一連の殺人行為に着手して、その目的を遂げたのであるから、たとえ、実行犯3名の認識と異なり、第2行為の前の時点でVが第1行為により死亡していたとしても、殺人の故意に欠けるところはなく、実行犯3名については殺人既遂の共同正犯が成立するものと認められる」としており、第1行為自体によってVの死の結果が生じることを甲が認識・認容していたことを前提とはしていない。
判例は、一連の殺人行為に着手して目的を遂げた以上、途中で既に死亡していても故意欠如にはならないとしている。第1行為それ自体で死亡結果が生じる認識・認容までは前提にしていない。
4 /
この判旨の立場に立てば、甲が第1行為によってVが死亡していることに気付き、自動車ごとVを海中に転落させる行為に及ばなかった場合でも、甲に殺人既遂罪が成立する。
判旨は、第1行為開始時点で実行の着手を肯定しているため、その後第2行為に至らなくても、既遂成立の可能性を否定しない。
5 /
この判旨の立場に立てば、第1行為を行ってもそれ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存在していたような場合には、甲に殺人未遂罪と重過失致死罪が成立することになる。
判旨は、特段の事情がないことを理由に着手を認めている。特段の事情がある場合まで当然に殺人未遂と重過失致死を認める趣旨ではない。
全体要旨
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