刑事訴訟法 第80問
教材: 刑事訴訟法①
プレ-23
論点: 逮捕・押収手続
問題
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【事例】
甲は、上司Aから叱責を受けたことを恨みに思い、上司Aらが居住していた賃貸マンションに入り、その玄関ドアを損壊した。この事実を甲から打ち明けられて知った同僚Bは、当該事実を警察に匿名の投書で知らせた。
○年○月3日午後5時、建造物損壊被疑事件の被疑者として甲に対し、逮捕状が発せられた。X巡査部長ら4名は、甲が勤務先の□□会社から出てくるのを待って逮捕するため、同社付近で張り込みを開始したところ、順次、同社の社員が、退社のため裏口から出てきた。同日午後7時30分、X巡査部長が、同社裏口から出てきた甲を発見した。甲は、X巡査部長を見るなり、上着を押さえるようにして逃げ出そうとした。そこで、X巡査部長は、その場で、甲に対し逮捕状を示して逮捕し、甲の上着の左胸付近が膨らんでいたため、上着の表側から左内ポケット付近に手を当てて在中物を確認しようとした。しかし、甲が体を引いて抵抗し、さらに、退社のため裏口から出てきた甲の同僚らが、甲と警察官を取り囲み、「何だ、何だ。」などと騒ぎ出したため、X巡査部長は、在中物の確認をやめた。その後、X巡査部長は、そのまま甲を最寄りのI警察署に連行し、同日午後8時ころ、同署において、犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与えた(ア)。
その際、X巡査部長は、甲に対し、上着の左内ポケットに何が入っているのか尋ねたが、甲が答えないため、同ポケットに手を入れて中を探り、そこにあったプラスチックケースを取り出し、その中身を確認した(イ)ところ、中から覚せい剤らしき白い結晶の入ったビニール袋が発見されたので、直ちにこれを押収した(ウ)。
X巡査部長の上司であるY警部は、翌4日午後4時30分、被疑者甲を検察官に送致し、検察官は、甲に対し弁解の機会を与えた上、同日5日午前10時50分、裁判官に対し、勾留を請求したところ、裁判官は同日午後5時30分、勾留状を発した(エ)。
翌日、X巡査部長は、犯行に用いた道具等を差押対象物とする捜索差押許可状に基づいて甲の自宅を捜索したところ、甲宅の2階押し入れ内から甲が犯行に使用したと思われる金属製バットを発見し、当該バットを含状に基づいて押収した(オ)。
公式解答
1. ア ウ
正誤・解説
ア /
司法警察員が被疑者を逮捕状により逮捕した場合には、直ちに弁解の機会を与えることが必要であるのに、弁解の機会を与えないまま、最寄りの警察署まで連行することは違法である。
逮捕後は、直ちに犯罪事実の要旨等を告げて弁解の機会を与える必要があるが、「直ちに」は現場で即時に完結することまで要求しない。よって、最寄りの警察署へ連行したこと自体が直ちに違法とはいえない。
根拠条文:刑事訴訟法203条第1項・e-Govで法令を開く
刑事訴訟法203条第1項―現行条文本文
司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
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過去問出題時点の旧条文と異なる場合があります。
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イ /
本件の場合、甲が拒否していても、X巡査部長は、甲の上着の左内ポケットに手を入れて所持品を取り出したり、その中身を確認したりすることは可能である。
逮捕の現場では、必要があるときは差押え、捜索又は検証ができる。逮捕の現場から最寄りの場所まで継続している範囲も含めて扱われる場合があり、所持品の確認も許されうる。
根拠条文:刑事訴訟法220条第1項第2号・e-Govで法令を開く
刑事訴訟法220条第1項第2号―現行条文本文
二 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。
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ウ /
甲が覚せい剤を所持する資格がないことが判明しているならば、その場で直ちに当該ビニール袋を押収できる。
差押えの対象は、被疑事実と関連性を有する「証拠物」に限られる。被疑事実が建造物損壊である本件では、覚せい剤入りビニール袋は直ちに当該被疑事実と関連する証拠物とはいえない。
根拠条文:刑事訴訟法222条第1項・e-Govで法令を開く刑事訴訟法99条第1項・e-Govで法令を開く
刑事訴訟法222条第1項―現行条文本文
第九十九条第一項、第百条、第百二条、第百三条から第百五条まで、第百十条、第百十条の二前段、第百十一条第一項前段及び第二項、第百十一条の二前段、第百十二条、第百十四条、第百十五条、第百十八条、第百十九条、第百二十条第一項、第百二十一条第一項及び第二項、第百二十二条、第百二十三条第一項から第三項まで並びに第百二十四条の規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第百十条の規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条の規定によつてする電磁的記録提供命令(第百二条の二第一項第一号イに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)について、第百五条の二、第百十条、第百十一条第三項、第百二十条第二項及び第三項並びに第百二十三条の二第一項の規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条の規定によつてする電磁的記録提供命令(同号ロに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)(当該電磁的記録提供命令により電磁的記録を提供させることを含む。)について、第百十条、第百十一条の二前段、第百十二条、第百十四条、第百十八条、第百二十九条、第百三十一条及び第百三十七条から第百四十条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条又は第二百二十条の規定によつてする検証について、それぞれ準用する。
ただし、司法巡査は、第百二十二条から第百二十四条までに規定する処分をすることができない。
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刑事訴訟法99条第1項―現行条文本文
裁判所は、必要があるときは、証拠物又は没収すべき物と思料するものを差し押えることができる。
ただし、特別の定めのある場合は、この限りでない。
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エ /
本問における逮捕後の手続において、刑事訴訟法の要求する時間的制限は遵守されている。
逮捕から送致、送致後の勾留請求、勾留状発付までの各時間をみると、203条1項、205条1項・2項の時間制限に違反していない。
根拠条文:刑事訴訟法203条第1項・e-Govで法令を開く刑事訴訟法205条第1項・e-Govで法令を開く刑事訴訟法205条第2項・e-Govで法令を開く
刑事訴訟法203条第1項―現行条文本文
司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
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刑事訴訟法205条第1項―現行条文本文
検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
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刑事訴訟法205条第2項―現行条文本文
前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。
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オ /
当該バットが甲のものではなく、甲の友人の所有物であるとしても、X巡査部長は、捜索差押許可状に基づいて当該バットを押収できる。
捜索差押許可状に基づく差押えは、令状記載の場所で差押え目的物につきなされた以上、所有者が第三者でも当然に妨げられない。
全体要旨
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