刑法 第441問
教材: 刑法③
司法試験 H29 第20問(改)
論点: 犯罪の成否
問題
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【事例】
甲は、覚せい剤の密売人であるてから、偽造した1万円札と引換えに覚せい剤をただし取ろうと考え、1万円札の偽造に使用する目的で、作業部屋を自己名義で賃借した上、印刷機及び印刷用紙を購入して同部屋に運び込み、それらを使用して1万円札100枚を偽造した。
その後、甲は、ホテルの部屋で乙と会い、乙に対し、100万円相当の覚せい剤(以下「本件覚せい剤」という。)の代金として、偽造した1万円札100枚を渡した。乙は、甲から渡された1万円札が偽札であることに気付かずに、甲に対し、本件覚せい剤を渡し、甲は、これを持って同部屋を出た。
甲は、本件覚せい剤をホテルの駐車場に駐車中の自己の自動車内に置いたところ、甲が乙に渡した1万円札が偽札であることに気付いて追い掛けてきた乙から、本件覚せい剤を返還するように求められた。甲は、本件覚せい剤の返還を免れるため、殺意をもって乙の首を両手で絞めて乙を殺害した。
その数日後、甲は、本件覚せい剤を所持しているのを警察官に現認され、覚せい剤取締法違反の現行犯人として逮捕され、A警察署に連行された。警察官は、A警察署の取調室において、甲の弁解録取手続を行い、甲の供述内容を弁解録取書に記載した上、同弁解録取書を甲に手渡して内容の確認を求めたところ、甲は、署名押印する前に同弁解録取書を両手で破った。
甲は、同取調室から逃げ出し、A警察署の敷地外に出た。
公式解答
1 / 2
正誤・解説
1 /
①について、甲が作業部屋を自己名義で賃借した行為は、通貨偽造罪の予備行為に該当することから、その段階で甲には通貨偽造等準備罪が成立する。
通貨偽造等準備罪は、偽造の用に供する器械又は原料を準備した者を処罰する。作業部屋を自己名義で賃借するだけでは、器械又は原料の準備とはいえず、準備罪は成立しない。
根拠条文:刑法153条・e-Govで法令を開く
刑法153条―現行条文本文
第百五十三条 (通貨偽造等準備)
貨幣、紙幣又は銀行券の偽造又は変造の用に供する目的で、器械又は原料を準備した者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。
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2 /
②について、甲には詐欺罪が成立し、偽造通貨行使罪は詐欺罪に吸収される。
偽造紙幣を代金として交付して財物をだまし取る場合、偽造通貨行使罪と詐欺罪が問題となるが、判例は詐欺罪の成立を認め、偽造通貨行使罪はその限度で吸収されるとする。
根拠条文:刑法148条第2項・e-Govで法令を開く刑法246条第1項・e-Govで法令を開く
刑法148条第2項―現行条文本文
偽造又は変造の貨幣、紙幣又は銀行券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者も、前項と同様とする。
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刑法246条第1項―現行条文本文
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。
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3 /
③について、覚せい剤は、法定の除外事由なく所持することが禁じられた物であるが、甲は、本件覚せい剤の返還を免れるために乙を殺害していることから、甲には強盗殺人罪が成立する。
薬物の返還を免れる目的で相手方を殺害して財物を保持した場合、財産上不法の利益を得たものとして強盗殺人罪が成立すると解されている。
根拠条文:刑法236条第1項・e-Govで法令を開く刑法236条第2項・e-Govで法令を開く刑法240条・e-Govで法令を開く
刑法236条第1項―現行条文本文
暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期拘禁刑に処する。
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刑法236条第2項―現行条文本文
前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
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刑法240条―現行条文本文
第二百四十条 (強盗致死傷)
強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の拘禁刑に処し、死亡させたときは死刑又は無期拘禁刑に処する。
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4 /
④について、丙が作成した弁解録取書には、甲の署名押印がないが、甲の供述内容が記載されていることから、甲には公用文書等毀棄罪が成立する。
弁解録取書は、公務所の用に供する文書に当たりうる。署名押印前であっても、内容記載のある文書を破棄すれば公用文書等毀棄罪が成立しうる。
根拠条文:刑法258条・e-Govで法令を開く
刑法258条―現行条文本文
第二百五十八条 (公用文書等毀棄)
公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、三月以上七年以下の拘禁刑に処する。
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5 /
⑤について、甲は、逮捕中に逃走し、A警察署の敷地外に出ていることから、甲には単純逃走罪が成立する。
法令により拘禁された者が逃走すれば逃走罪となる。現行犯逮捕された甲が警察署の管理下から逃れた以上、単純逃走罪が成立する。
根拠条文:刑法97条・e-Govで法令を開く
刑法97条―現行条文本文
第九十七条 (逃走)
法令により拘禁された者が逃走したときは、三年以下の拘禁刑に処する。
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全体要旨
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